
中国北西部の乾燥・半乾燥地域では、過剰耕作、家畜の過放牧等の人為的な要因および気候の変動等の自然的な要因による草原の荒廃、砂漠化が進行している。現在、年間約200万haの速度で草原の荒廃が進行中で、中国全土の草原の65%は著しい荒廃にさらされており、砂漠化等の影響を受けていない草原は10%に過ぎない状況にある。草原の荒廃に伴い、自然生態環境は悪化し、植生率の低下によって、黄砂等の砂塵被害、土壌浸食および河川への土砂流入等の問題が生じている。これら生態環境の悪化は、人間の生活環境をも悪化させているとともに国民経済の持続的発展にも悪影響を与えている。
中国政府は、草原の荒廃、砂漠化による生態環境悪化の現状を踏まえ、耕作を止め草原に戻す措置(退耕還草)および放牧を止め草原に戻す措置(退牧還草)等により、草原における植生の回復と生態環境の改善を図っている。また、「草原法」を制定する等、法律による草原の利用・管理規制も強化している。さらに、畜舎飼育との組み合わせによる放牧管理システム(禁牧、休牧、輪牧等)を確立し、草原に対する負荷を減少させるとともに、併せて同システムの実行性を確保するための人工草地を建設し、長期的な飼料生産を実現させる取り組みを行っている。


人工草地において飼料の生産性を向上させるためには、灌漑施設による用水の供給が不可欠であるが、その整備率は低く、干ばつ等の自然災害に対する対応能力は脆弱である。また、既存の灌漑施設レベルが低く、設計、施工、維持管理など全ての面において改善が必要である。このため、中国政府水利部は人工草地における灌漑施設の整備を今後一定の期間内の重要な事業と位置付け、「全国牧区草原生態保護水資源保障計画」を定める等、灌漑施設の整備、節水灌漑に関する技術の普及に努めている。しかし、対象地区の多くは、これまで牧畜が主体であったため、水資源の賦存量等の自然条件を踏まえた灌漑施設の設備に関する経験が少なく、また牧畜民は灌漑農業の経験を有さないことから効率的に水を利用するためのシステムが構築されていない等、人工草地における節水灌漑に係るモデル的な整備手法が確立されていない状況にある。
日本における農業水利は、国土に対する環境の保護と改善を受けもつ重要な部分である。日本は灌漑事業による生態環境の改善に成功した経験と成熟した技術を持っている。日本の経験と技術を学習、参考にすることは、中国が農業灌漑において環境面の改善と保護の具体的な措置を探求するためにも役立つことになり、中国農業および環境の持続的発展を全面的に支援する働きを持っている。
このような背景のもと、中国政府は、牧畜草原における合理的・計画的な節水灌漑システムを確立するため、日中技術協力プロジェクト「草原における環境保全型節水灌漑モデル事業」を日本政府に要請した。 |